2024.11.12 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
はや11月中旬、今年も秋が短く夏から一気に冬という気候だろうか。我々にとっては11月12月の青果物の市況がとても重要である。順調に出荷できれば、荷がダブつくことなく、正月明けもそれなりの価格で推移する可能性が高いからだ。
国は、2040年には基幹的農業者の数が40万人を切ると予測している。一方で、食料自給率の底上げや環境に優しい農業を推進する。もはやこれは成り立たないと諦めたほうが良いのではないか?
農業に従事する人が加速度的に減るのだから、規模拡大、スマート農業の推進、データ駆動型農業(ICT)の実践などを盛んに言うのは理論上理にかなっている。しかし、特に施設園芸の場合、数ha規模のハウスを建てるとすれば、殆どはオランダを中心とするヨーロッパ技術の導入(はっきり言えば輸入)となる。もちろん日本の技術でも可能ではないかと思うが、あまりにマーケットが少なくコストパフォーマンスが合わない。むしろ今程度の規模で採算が合い、美味しく安全で、しかも環境に優しい農業にかじを切ったほうが良いのではないだろうか。多様な農家がいて多様な生産物がある、これを日本農業の強みにしてはどうか?
自給率や食料安全保障の観点から異論を言うのは国賊みたいに言われるが、食料自給率などは数字目標から外した方が良い。園芸はほぼカロリーを産まないし、畜産は作れば作るほど食料自給率は下がる。美味しく安心安全な日本農産物を世界に輸出することに本腰を入れたらどうだろうか。
生鮮食料品は、検疫等で多くの国で輸出できなくなっているが、これを取り払う交渉に全力を払うべきだ。高級日本酒がいくら売れても農家にはほとんどメリットはない。少々高くとも生鮮食料品がアジアを中心にもっと売れるようになれば、食料安全保障上も、多様性によるリスクヘッジ上も大きな価値がある。
2024.10.17 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
「なぜ日本では有機農業が増えないのか」これは素朴な疑問です。日本は四季豊かで「旬」を大切にする国です。また地球環境問題に関心の高い国民も多く、有機農業にも西欧諸国より理解がありそうな気がするのですが、現実は2020年基準でもヨーロッパは10%以上に対し、日本は0.3%程度にとどまっている。有機農業を志し、新規就農する人も多くが挫折、あるいは専業では生活が成り立たないのが現実のようだ。
そもそも何のために有機農業が奨励されるのか? 環境保全のためか、食の安心・安全のためか、国内資源の有効活用のためかなどいろいろあるが、そのすべてでしょう。ごく大雑把に言えば、有機農業を実践すれば、労力2倍、収量半分と言われる。差し引き現行農産物より4倍高く売れれば、ビジネスとして成り立つかもしれないが、現実は1.2倍程度、場合によっては「くずもの」として半値で取引される。
論点を変えますが、日本の治安は良いと思う外国人が多いのは、どうしてだろうと考えました。日本人は物を落としても拾った人が返してくれる、夜道を歩いていても突然強盗に襲われると怖がる人は少ない。これと同じように日本の農家が作った農産物は、敢えて違法な作り方はしてないだろう、まして毒など入っていないと信じられているからではないだろか?
国際的な認証制度取得の是非も問われるが、輸出を目指すのであれば認証を受けることは価値がある。買う人は作り手の正体がわからないので、認証がなければ危なくて買えない。つまり、作り手を信用しない前提で社会が成り立っている。ところが日本では、基本的に安全で、人々は信用できるという前提に立っているので、高価で形の悪い有機農産物を敢えて買う必要はないと思っている日本人が、大半なのではないかという仮説をたてました。
最近、日本人には「愛国心」がないと嘆く考え方の人もいますが、愛国心という難しい熟語を出さなくとも、自然に無意識に、日本が好きだと思っている日本人が多いだけではないかと思います。それを平和ボケという人もいますが、是非とも平和ボケで自然災害以外はリスクの少ない国で有り続けてほしいと私は思います。
話が飛躍し過ぎかもしれませんが、なぜ日本で有機農業が増えないかを考えるうちに、地球環境問題・戦争と平和・愛国心への考え方にまで発展してしまいました。
2024.10.08 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
10月の声を聞き、長かった夏がようやく終わろうとしている。今年の夏は、前半は酷暑・干ばつ、お盆を過ぎても猛暑が続き、台風10号が来るぞと10日以上振り回され、新幹線も計画運休した。その是非は色々意見あるだろうが、結果として多大な損害を受けた業界も多いだろう。それでも10月の声を聞くと渥美半島一面にキャベツの苗が植えられ、そのほとんどが活着している。農業に縁のない方は「それって当たり前だよね」と思うだろうが、私はこれぞプロフェッショナルだと思う。いつ植えたのだろう、どれだけ苦労したのだろうかと想像する。
チャンスを見ながら、寝る間を惜しんで一気に苗を植えていく農家の目線で農業政策を語れる政治家がどれだけいるだろうか?
なぜこんな偉そうなことを言うかといえば、今年の秋は選挙の年、立憲民主党の党首選挙があり、自民党の総裁選挙があり、本日現在では石破内閣が成立し、10月27日が総選挙と決まった。また、今年は新農業基本法が成立した年でもある。しかし、私の印象では農業政策は、あまり主要な論点にならなかったし、メディアもあまり取り上げなかったような気がする。強いて言えば、ロシアの侵略戦争があり、イスラエルのガザ侵攻があり、台湾有事が叫ばれる中で「食料安全保障」の観点から発言する政治家は多かった。
しかし、キャベツの苗を必死に植えている農家にとって、「食料安全保障」は主要なテーマなのだろうか? 強いて言えば農業施策はたしかに難しいし、お米の不足と値上がりが現実となっている中で、下手なことを言えばさらなる価格高騰を招き、揚げ足を取られるかもしれない。私は、今のお米の価格が正常で、これくらいは払わないと日本の農家もやっていけないよねと大半の国民が納得するくらいでないと、日本農業の危機はさらに深まると感じています。
これはインフレではない「農業産出物の価値を再定義する時が来たのだ」と言える政治家がいると良いなと思う。
2024.09.03 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
例年、8月は異常な猛暑と言われていますが、今年もまさに猛暑でした。地球温暖化(沸騰化)は、ほぼ定説になりましたが、人によって「今は太陽活動が強い時期で、いずれ寒冷化に向かう」と言う人もいます。いずれにせよ、我々がバトンを渡す子供世代・孫世代に寒冷化が始まるとはとても思えない。30年後・50年後のことが心配です。我々は地球を子孫から託されているのであり、いつか断罪されるのではないかと思う。
キャベツ農家も大変です。8月は定植時期ですが、8月上中旬は猛暑の上、全く雨が降らない。用水の力を最大限借りなければならないが、労力は2倍、3倍かかる。下旬には台風10号の到来、当初は直撃かと施設園芸の被害が気になったが、どんどん速度を落とし、南寄りに進路を変更、東海直撃は免れたようですが、連日雨が振り続ける。そのような状況でも農家は、小雨の降りしきる中、定植作業を続けていた。車から頭を下げました。しかし、定植が無理な圃場がほとんどです。天気が回復しそうな9月以降の忙しさは、例年の比ではないと思う。それでも11月になると、多分一面のキャベツ畑を見れることになるでしょう。なぜならば、彼らはプロフェッショナルなのです。
もう一つ心配なのは米価の動向です。昨年の作況指数101は、間違っていたとは絶対に農林水産省は言わないだろう。今言えば火に油を注ぐようなものだから。しかし、現実は100を下回ると推定します。一部の目聡い消費者は、8月初旬頃から多めにお米を買うようになっていた(近くのスーパーでよく目撃した)。お盆後のスーパーには、在庫がないところが多かった。しばらくは入荷しても、昨年比10kg単位で1000円以上売価は上がるだろうと思います。しかし、報道機関にはどうか「お米が高くて買えない」と派手な報道をしてもらいたくない。多くのお米農家にとっては、やっと採算の合う水準の価格になってきただけなのだから・・。
2024.08.02 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
今年は、例年にも増して猛暑が続く。弊社では7月下旬から8月下旬までが、野菜苗生産のトップシーズンで、専業農家からの播種作業の委託や施設野菜苗の受注が毎年増えている。ビジネスとしては、需要が増えるのだからありがたいが、温暖化の影響もあり、毎年過酷な仕事となっている。もはや当たり前になってきたが、生産施設内の仕事は正直過酷で社員の健康が心配です。しかし、過酷な中でも苗の品質を落とすことはできない。農家も必死だから苗の品質低下の原因を天候異変と説明しても許して貰えそうにない。
また、農家も本当に大変だ。この猛暑の中、施設園芸では定植準備、露地栽培では播種・育苗作業があり、連日35度を超える天候のもとでは、購入していただいた種子の発芽率の低下も懸念される。とにかく8月が終わるまで心配事は尽きない。
国は盛んにスマート農業を推進する。スマート農業とは「ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化、精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業」と定義されている。しかし、園芸農業の現場、少なくとも施設栽培でも露地栽培でも定植が終了し、活着が確認されるまでの間に、スマート農業を実感できるような場面はほとんどない。稲作ではかなり自動化が進んでいるが、野菜作では相当大規模な畑がなければ、全自動型の定植機もドローンの活用もまだまだ難しそうだ。
自動化の利便性は誰しも理解するが、かかるコストに見合う労働生産性の向上に多くの農家は疑問を持っている。ましてこの数年の収益性は特に厳しい。国は大規模化を進めて、単位あたりの設備投資コストを下げることによって、収益性を高めようとする狙いなのだろうが、猛暑の中、労働集約を進めて生き残ろうとする中小農家こそ、日本の園芸農業を支えている。
20年後には基幹的農業者数は、現在の三分の一以下になると言われている。野菜の需要量も1970年代から見れば30%以上縮小している。頑張る農家が儲かるようになるならば、三分の一でもいいのではないと密かに個人的には思っています。会社は会社でマーケット縮小の中で生きる道を考えれば良い。
2024.07.03 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
今年も7月を迎え、いよいよ秋冬作の時期となりました。弊社でも最繁忙期となります。日本の栽培地区を大きく分けると、日本には夏作地区と冬作地区がある。夏作地区とは、夏場に葉菜類を出荷する気候が冷涼な地区、北海道や本州の高原地帯が主産地。冬作地区とは、気候が温暖で主に冬季に葉菜類を出荷する地区、主に関東から沖縄までの太平洋側に多い。
弊社の地盤の東海地区は、正に冬作の主産地です。もちろん春にメロンやスイカ、トウモロコシ等を作る年2回作ですが、農家の収入の7~8割は冬作にかかっている。そういう意味で秋冬作が表作、春夏作が裏作という人もいるくらいです。
繁忙期を迎えますが、今年も夏の猛暑、異常気象が心配です。お客様である農家にとっても大変ですし、会社の営業部隊や苗作りの部署も大変です。無事高品質の商品をお届けできるのか、また熱中症で倒れる人が出ないか、心配が尽きない約3ヶ月となります。すでに6月が猛暑と言われています。この先、夏が3ヶ月ほど続くと考えるとため息が出ます。
そもそも日本農業には、近々の問題としても大きな心配が2つあります。1つは2023年産米の不作によるコメ不足の影響の広がりです。国は、不安が広がらないよう不足の否定に躍起ですが、市場がジリジリ高騰していますし、夏に在庫を確保できない店もあると聞いています。
もう1つは、豚熱(旧豚コレラ)の広がりです。これにアフリカ豚熱が上陸となると、畜産市場は大混乱が予想されます。
原因はすべて異常気象という理由ではないでしょうが、今年の秋、仮に新米が不足し、園芸野菜も不作、国産豚肉が食べられないということになれば、日本中が大騒ぎになるでしょう。
また、コロナ禍と生産資材の値上がり、価格の低迷で、この4年間で離農者は間違いなく増えています。農業の生産基盤が弱体化していることは事実ですが、私の知る限り、真の理由は、国やメディアが報道する危機感とは違うところにあるような気がしています。
我々のできることは、この夏も頑張る農家に寄り添い、役立つ商品や情報をきちんと届けることです。そして暑さに負けない体力の確保ですね。会社にとっても日本農業にとっても勝負の夏が始まりました。
2024.06.04 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
6月は、秋冬作(夏に種を蒔いて、秋冬期に収穫する作型)の準備の季節です。夏作如何で年間の収益がほぼ決まる大事な作型です。
2020年のコロナ禍からはや4年目、肥料・重油・輸入飼料等の生産資材価格の高騰と市況価格の低迷で、農業現場はかつてない悲惨な状況が続きました。正直、離農を決断した農家も少なくありません。価格の高騰は少し落ち着いてきたようですが(高値のままということですが)、それでも今年も各種生産資材の値上げの話は聞く。売る側もマイナス、買う側もマイナスの負のスパイラル状況です。売れないから製造コストが上がり、売価を上げる。買う側は、売れないから高い資材は買わない、作らない。
先頃、農政の憲法とも言える「食料・農業・農村基本法」の改正案が参議院を通過した。「食料安保」を掲げているが、現場の心配は食料安保を担う前に、生産主体が壊滅してしまうのではないかということです。自給率の危機は、決して農家の老齢化でもなく、遊休農地の増加のせいでもない。ただシンプルに儲からない、食べていけないと感じている人が増えているからだと思う。
しかも、今年の夏は新たな難題が待ち受ける。ひとつは、予想される更なる異常高温から作物をどう守るかということ。もっと深刻なのは、国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」、「緑の食料システム戦略」と現場の農業とが、どう折り合わせるかという大問題だ。
一般に有機農業を実践すれば、生産量は2分の1以下、労力は2倍以上かかると言われる。4倍以上の価格で売れればよいが、現実は1.2倍、あるいは1.5倍位がせいぜいのようである。しかも、上記「食料安保」概念とはかけ離れて、現場の不安は生産過剰による暴落相場の到来である。こうした難題を前にしながらも、弊社は頑張る農家に寄り添っていきたいと思っています。
2024.05.08 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
弊社では3回の節目がある。1つ目は正にお正月、新しい年の始まり。 2つ目は4月1日、新入社員を迎え、組織も新年度に向けて再編、スタートする日です。そして3つ目が5月1日、会社にとっては新年度です。しかし、5月1日はゴールデンウイークの真っ最中、どうも新しい年度を迎えたという雰囲気にはならない。
日本では3月決算が多い中、どうして4月決算になったのか、私も正確には知らないが、4月は家庭菜園や一般園芸が活発な月、もともと店頭小売が原点だったので、3月は避けたかったのだろうと推察します。そして5月・6月は、例年最も売上が少ない月ですから、決算業務に時間を割ける4月が選ばれたのだろうと思います。
しかし、5月には重要な行事がある。弊社は「経営計画書による経営」を標榜しています。昨年、某大手中古車販売会社の不祥事があり、この経営計画書は社員の手足を縛る道具ではないかと叩かれたが、私から見れば使い方・考え方によっては凶器になりうるという教訓を頂いた。
私は、経営計画書を会社の理念を共有し、お客様への姿勢や行動基準のベクトル合わせの道具だと考えています。人にはそれぞれ個性があり、得手不得手がある。社交的な人もいるし、対人関係が苦手な人もいる。苦手を克服するよりも、自分が楽しい、好きだ、やりがいがある、正しいと思うことをその人なりのやり方で表現してくれれば良い。真摯な思いがあれば、必ずお客様はわかってくれる。
ただ理念や思想がバラバラでは困る。だから会社が向かおうとする方向性、ベクトル合わせは重要だ。迷った時には、経営計画書を読んでもらえば、考え方は書いてある。方向性が定まれば、やり方は一人ひとりバラバラでも良い。
5月には全社員に新しい経営計画書を配布し、全社員参加の「経営計画発表会」を実施する。やはり5月は大事な月、本来は会社にとっては「お正月」のようなものなのです。
2024.04.02 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
4月1日 弊社も新卒社員を9名迎えることができました。会社の決算は4月末ですが、4月は新組織となり、今日は入社式です。実質的な新年度入り、会社のお正月のようなものです。ここ数年と唯一違いがあるのは、桜がまだ2分咲きだということ。生活が変わる新人にとっては、入社後に満開を迎える桜を楽しめるのは、緊張を解す上でもありがたいでしょう。一生忘れない桜になるかもしれません。
新卒・新人を迎えるには、会社を発展させる決意が必要です。新入社員には難解だったかもしれませんが、私は敢えて未来の会社にとっての2つの大きな課題を述べました。
1. 日本の基幹的農業従事者数は、2022年の推計で116万人、民間予測では2040年には30万人を切るのではないかと言われています。実に70%減です。国内農業マーケットの縮小は間違いありません。そうした縮小マーケットの中で、どうやって会社を発展・拡大させる事ができるのか? 私の古い頭では、今後も「頑張る農家を応援・選ばれる会社になる」しかないとのアナログ回答しかありません。ブレイクスルーには若い社員の知恵が必須です。
2. 昨年度から日本はインフレ社会となり、メディアでは大企業を中心に給与の大幅アップ、「満額回答で妥結」と盛んに報道されています。今後は給与アップの波が、中小企業に及ぶかどうかが鍵と言われています。更に、その際の処方箋は「適正な価格転嫁」を行う事と解説しています。しかし、我々のお客様である多くの専業農家は、自らの力では「適正な価格転嫁」を行うことはできません。価格は市場で決まるからです。むしろ大手資本による食料品が値上がりしている分、「生鮮食料品」は値下げしたいと言うのが大手スーパーの本音だろうと思います。価格転嫁の自由がないお客様への販売が主な仕事である弊社はどうすればよいのか? 社員の待遇改善・給与アップは緊迫の課題です。一口に言えば労働生産性を上げるしかないというのが私の結論ですが、処方箋は見つかりません。やはり若い社員によるブレイクスルーが必須です。
以上が私の大きな課題認識です。逃げているように思われても仕方ありませんが、若い世代に突破口を開いてもらいたいというのも本心です。入社式ですから許してください。
そして、そうした厳しい現実に敢えて飛び込んでくれた新人社員には本当に感謝です。「やりがいもあり」、「働くことが楽しくて仕方がない」と言ってもらえるような会社を目指したいと、心の底から思っています。
2024.03.04 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]
政府は「農政の憲法」とされる食料・農業・農村基本法改正案を国会に提出した。2024年度予算成立後審議に入るようですが、国民の関心(メディアの関心というべきか?)は薄い。また、関心のある人にとっても、立場によって見方が180度異なる。それを私は「農業問題のパラドックス(逆説)」と呼びたい。
(1)「食料安全保障の確保」が、基本法の中心理念であることは間違いない。自国農業衰退による食料危機を、多くの国民は心配している。食料自給率38%、将来は更に低下するのではないかと危惧している。しかし、農業現場での心配は「生産過剰」の問題です。お米も野菜も常に生産過剰による暴落を心配している。更に言えば、農業生産資材高騰にも関わらず、生鮮食料品の価格は上がらないことに対して、一定の所得補償政策を打ち出すべきか、生産過剰が収まるまで放置すべきか議論が分かれている。率直な意見を言えば、生産不足気味のほうが生産者はありがたい。
(2)「環境との調和」との温度差。国は農林水産業の環境負荷を減らすための7項目「①肥料の適正使用 ②農薬の適正使用 ③電気・燃料などエネルギーの削減 ④悪臭や害虫の発生防止 ⑤廃棄物の発生抑制と循環利用・適正な処分 ⑥病害虫防除など生物多様性への悪影響防止 ⑦環境関連法令の順守」を掲げ、これをクリアしないと補助金対象から外す政策の実現を目指している。多くの国民は安心・安全な食糧生産を期待し、有機農業の推進や化学農薬・肥料の削減ができれば、環境にも優しく、生産コストも下がり、良い事ばかりと考えている。
しかし、現場では大雑把に有機農業を実現するには、生産量半減、労力は2倍と思っている。掛け算で今の4倍位の価格で売れないと経済的に合わないが、現実はせいぜい1.2倍位しかならない。環境問題の取り組みにしても、そもそも国土の保全、環境と文化の守り手は農村ではないかという自負がある。双方の認識には大きなギャップがある。現在、EUで多発している農民デモも、根底には「農業は環境の破壊者」と定義づけるような環境政策に、農民が我慢できなくなったということが大きいのではないだろうか。環境の保護者と自負していた農民が、犯罪者のように扱われたら我慢出来ないだろう。牛のゲップがCO₂増加の主要な原因と言われてもなかなか打つ手はない。また、循環利用型農業は農家も望むところであるが、そのためには使用資材削減効果の何倍もの設備投資が必要となる。
私が具体的な提言を出せるわけではないが、一番心配しているのは基本法改定が成立しても、農業の担い手がいなくなるのではないかということ。現場と理念の間には、大きな乖離があることを、できるだけ多くの人々に知っていただきたい。そしてメディアも、もう少し深掘りしていただき、かつもっと積極報道してもらいたい。