昨年改定された新農業基本法の最大の理念は「食糧安保」にある。平たく言えば自給率を向上させ、将来起こりうる食糧危機に際しても国民を安心させることだ。しかし、現場の危機感は「不足」よりも常に供給過剰による「暴落」だった。つまり作り過ぎを常に恐れていた。ところが2020年から3年続いたコロナ禍を経て、多くの農家は疲弊した。肥料・燃料・資材価格がどんどん上がるのに、販売価格は上がらない。離農を考えた人も多く、子供に跡を継げとはとても言えない。見えないところでかなりの担い手と優良農地が消滅した可能性がある。
2025年3月、お米の値段も主要野菜の相場もかなり高い。輸入業者にはチャンス到来だ。ただこれは単に「異常気象」のせいだろうか? かつて異常気象は「豊作貧乏」の予兆と捉えられていたが、今後は慢性的な国産農産物の不足が生じるサインになったのではないかと直感的に思う。
更に言えば、「環境にやさしい農業」・「スマート農業の推進」がより農家を苦しめている可能性がある。環境にやさしい農業はより労働強化につながるだろうし、スマート農業を実現する資材の価格は経済的に合わないレベルとみられている。私も具体的な回答は見いだせないが、少なくとも新農業基本法の理念は良くとも、それを担う現場の担い手は消耗している。多様な担い手の確保と、仮に作り過ぎても価格が担保される「米政策」に転換しない限り、「食糧安保」はおぼつかない。現場の農家にとっては、供給減圧力が強まることはむしろ好機であるが、それを国際価格基準で国がコントロールしようとすれば、ますます離農者は増えると思う。多様な価値観を持った農業生産者がやりがいをもって、生き生きと働ける未来がベストだ。
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