ブログ「社長のつぶやき」

2021.10.01 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

地産地消は電力こそ大事

  地産地消といえば、一般的には農産物についての概念と思われています。
近い言葉としてイタリア発の「スローフード」、韓国での「身土不二」運動などが有名です。
集中よりも分散、人工的な物よりも自然に近いものが大事というイメージに繋がります。

 地産地消のメリットは大きく2つあります。
一つは「フード・マイレージ」が小さく、結果としてCO2排出量低減に役立つという実利的な面。
もう一つは地元産の伝統食材を大事にすることが健康に良いというイメージです。
ほとんどの場合「地産地消」は肯定的な意味合いで使われることが多いと思います。

  かつて市の農業委員をさせていただいた折、こんな討論がありました。
一部の委員が地産地消の推進を唱えた際、猛然と批判の意見を述べたキャベツ農家が見えました。
「豊橋の甘藍(キャベツ)栽培は典型的な輸送園芸だ。温暖な気候を利用した冬季収穫の一大産地、全国に売ることを大前提としている。地産地消の推進は自らの首を締めるようなものだ」と。

  私は大いに納得しました。
日本は緯度的には極めて縦長で、亜寒帯から亜熱帯地区まで有する。
食料自給率の低さをよく問題にされるが、一方で1年を通して国産野菜を食することができる稀有な国でもある。
スーパーマーケットに行けばどの季節でも当たり前のように国産の甘藍・胡瓜・トマト等が並べられている。

  意外と消費者はこの日本の特異性を理解していないような気がする。
カロリーベース食料自給率の低下を大問題と考える人の立場もわかるが、野菜・果樹:花卉生産において非常に恵まれた国であることも間違いない。
水も概ね豊富でしかも良質です。
北海道に住む人が地産地消で冬にトマトを食べたいと思うなら、膨大なエネルギー支出(CO2排出)を覚悟しなければならない。

 こと日本においては「地産地消」よりも「適地適作」のほうがエネルギー収支上も有効だろうと思います。
尤も、旬の露地野菜以外は食べないと言う人には、「地産地消」は大切な概念ですが、カーボンゼロを目指す2050年においてもかなり少数派だろうと推察します。

 そんな時ふと思い当たったのがエネルギー、とりわけ電力の地産地消の取組こそ大事ではないかということです。
東京都に食料の地産地消を求めても無理だと思うが、電力ならもう少し地産地消を考えることができるのではないか?
もちろん原電が前提ではなく自然エネルギーを前提として。大都会には、たとえ景観を損ねても、大型の海上風力発電の景観を受け入れてもらうしかないのではないか。

 電力の地産地消は技術的にも経済的にも莫大な課題があるようですが、少なくとも2050年カーボンニュートラル、地球温暖化防止の観点からも電力の地産地消、あるいは自給自足概念の方が、食料の「地産地消」よりも遥かに人類生存上の重要問題だと思うこの頃です。

2021.09.06 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

2050年脱炭素社会の実現にむけて

 2021年9月 新型コロナウイルス禍収まらず、政局も混迷。忘れがちであるが、昨年10月開催された臨時国会冒頭の所信表明で菅義偉総理は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。本年度農林水産省は持続可能な食糧生産システムの確立と農業界におけるカーボンニュートラルを旗印とした「みどりの食料システム戦略」を発表しました。

 身近な問題としても、今年の夏の異常気象(特に長雨)は、「地球温暖化」と関係があると想像せざるを得ない。 農家も、育苗や定植に大変苦労されているでしょう。野菜苗生産を業務とする弊社においても大きな影響がありました。またSDGsへの取組も必須案件です。特に若い世代は関心が高い。かつて学生からCSR活動について質問を受けたが、現在ではSDGsへの取組について答えられなければ、学生から見向きもされない時代となるでしょう。

 私事ですが、私は1972年ローマクラブが発表した「成長の限界」を真剣に信じた一人です。石油は20世紀中に枯渇するかもしれないのに、車を乗り続ける人は「悪」と思い詰めた程です。しかしそうはならなかった上に、22歳からずっと自家用車を乗り続けています。何たることでしょう。1993年国連が発表した「持続可能な成長」(Sustainable Development)という言葉は座右の銘にしたいほどでしたが、ほとんど「枕詞」になりつつある。そして2050年脱炭素社会の実現と言われても、感受性が鈍くなった60代の自分にはさっぱり現実味がわかない。「みどりの食料戦略」に至っては、商売にも大きく関係しそうですが、具体的なロードマップが見えてこない。人間性が相当劣化しているのではないかと自問自答します。そもそも地球が危ないわけではなく、人類が危ないのであって、地球の平均気温が4度上がっても人類は滅亡するかもしれないが地球は生き残る。地球自体はそれを望んでいるのかもしれない。1億年後には新たな高等生物が1億年前の人類の自滅を教訓として小学校の授業に活用しているかもしれない。

 ボヤキのように受け取られたら残念ですが、それでも次世代そしてまたまだ見ぬ世代の人類が快適に暮らせる地球を維持する責任は、現代の我々にある。現況 弊社を取り巻くビジネス環境は厳しく、またお客様である農家の経済環境も非常に厳しい。しかし地球環境問題への取組、そして持続可能で発展を続ける農業への取組は会社の生存理由そのものだと自覚しています。 「みどりの食料戦略」についても会社として取り組めそうな項目あれば少しでも確実に実を結ぶよう活動したいと思っています。 それにしても当面は新型コロナウイルス禍の終息を願う日々が続きそうです。

2021.08.12 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

最近気になる4文字熟語 「安全安心 誠心誠意 不要不急」

 弊社の第54期(R2.5月~R3.4月)は大変厳しい内容でした。今期は前期の反省点を踏まえ、しっかり挽回しようと思っていますが、その前提は夏頃までに新型コロナウイルス禍も終息するだろうということでした。恐らく菅首相も同じような楽観論に立っていたのではないかと推測します。ところが現実は東京オリンピックに合わせたかのように感染が急拡大、今までにない深刻な様相となっています。菅首相はじめ政府及び組織委員会は「安全安心」という言葉を繰り返し述べて来ましたが、安全というのは客観的な指標に基づく言葉であり、その反対語は「危険」です。「東京でのオリンピックの開催には最大限の安全対策を取るが、リスクが残ることは否定できない。それでもオリンピックの自国開催はリスクを上回る価値がある」と言うべきだったのではないでしょうか。オリンピックが終わった今、国民と世界のアスリート向けに、リスクに耐えていただき、心から感謝すると言ってもらえば、多くの国民ももう少し納得感があったのではないでしょうか。リーダーはリスクを取ると決めたとき、その意志を明確に、しかも気持ちをこめて伝えるべきだと強く感じました。安全安心という4文字熟語の重み、強いて言えば価値観を大きく下げてしまったような気がします。

 また「誠心誠意」という言葉もよく使われますが、これも不祥事が起きた場合の責任者が、その本質・真実を隠そうと、今後このようなことがないよう精一杯頑張りますという時に使う言葉に成り下がってしまったような気がします。本来は座右の銘ともなる4文字熟語です。そもそも経営者は誠心誠意努めたが結果は赤字でしたなどとは社員に言えない。結果がすべてだからです。嘘をついてでも隠したいことがある場合に使う言葉になっていないだろうか。

 もう一つ 緊急事態発令下、「不要不急」な外出を避けるように再三広報されています。不急はまだわかる。今すぐでなくても良いことはコロナが収まってからにしようと私も考える。しかし「不要」については、「特に必要でないこと」と定義されています。特に必要のないことはそもそもしないのではないか? 何らかの必要を感じて人は行動する。したがって不要不急な外出かどうかを判断するのは非常に難しい。「不要不急かどうかは個人の判断」との某大臣の発言は論理的には正しい。まるで呪いの言葉のように毎日言われ続けると、この4文字熟語はいずれ人々が忌み嫌う言葉にならないかなと余計な心配をしてしまいます。まあどうでもいいと言われればそれまでですが・・。

 評論家のようなブログになりましたが、要は経営環境厳しい中、自分も経営者として一つ一つの言葉をしっかり吟味して、しっかり消化した上で責任も持って述べる事が大事と改めて認識したということです。会社も正念場、しっかり前を向いて良い結果が出せるよう頑張ります。

2021.06.10 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

「安心・安全」な〇〇


6月に入りましたが、9都道府県には緊急事態宣言が継続中です。
6月20日まであと2週間、東京オリンピック開催判断も含めて最も重要な季節となりました。
新型コロナ禍の行方は、仕事にも大きく関わるだけに、とても気がかりです。

このところ「安心・安全」なオリンピック開催を目指す等、政府筋から「安心・安全」という言葉が頻発されています。

この言葉はかつて農薬取扱にあたってポジティブリストが採用される際、業界の講習会でよく聞いた言葉です。

当時の講師曰く(名前忘れたが、官の人であることは間違いない)、「安心」とは具体的な基準があるわけでなく、主観的な心のあり方であり、「安全」とは具体的な数値基準があり、法で認められる範囲内で適正に農薬を使用する限りは「安全」であると聞きました。

ただポジティブリストの採用に当り、異なる作物の隣接農地から飛散した農薬が、当該作物にとって適用外農薬である場合、0.01PPMを超えると「安全」ではなくなるのでとにかく飛散防止に努めてほしいとの内容でした。

これは大変なことだと思いました。

ここ豊橋でも柿や温州みかんの隣にキャベツ畑が広がることもある。
キャベツ農家が厳密に農薬の使用基準も守っていても、飛散によって0.01PPM以上の適用外農薬が検出されることはありうる。
ましてそのことがメディアに報道されれば、産地にとっては壊滅的な風評被害を招きかねない。
左様に「安全」とは具体的、論理的、数値上の基準に基づく用語であると教えていただきました。

しかし残念ながら今回の東京オリンピックをめぐる政府筋の「安全」について、具体的な数値基準が示されているとは思えない。
まして農薬のようなポジティブリスト制度に準じるならば「安全」はほぼ100%ありえない。10万人に一人陽性者が出たら、「安全基準」を満たさないことになる。
もうここまでくれば「安全」という言葉はやめて、「必ずしも100%の安全は望めないが、オリンピックを開催する大義はリスクを遥かに上回る」というべきではないだろうか?
まして「安心」は心のあり方ですから、例えワクチン接種が進んでも何割かの国民は「安心」ではないという気持ちは変わらないだろう。
企業運営においてもこうした状況はしばしば起きる。
そのような時は、リーダーが自分の考え、想いを熱く伝えるしかないだろう。
会社であれば批判する社員が多いほど、ある意味良い会社だと私は思う。
東京オリンピックの開催是非についてもすでにその時がきたと私は思っています。

2021.05.07 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

5月は会社新年度

弊社は4月末決算のため5月1日が新年度となります。

新年度は気分一新と行きたいところですが、ゴールデンウイーク週間と重なり、気勢は上がりません。
ゴールデンウイークが終わってやっと新年度という感じです。
しかしそのゴールデンウイークも2年連続新型コロナウイルス禍となりました。

毎年5月2日(日曜の場合は前日)は豊橋駅前のホテルアソシアに全社員があつまり「経営計画発表会」を開催するのが弊社の慣習ですが、2年連続でキャンセル、ZOOM利用の遠隔会議となりました。

私にとっては年に一度の最高の舞台、いわば「お立ち台」ですが、その「楽しみ」を奪われたようなものです。
前期の決算が上々であれば更に気分は最高、発表会後の新入社員の紹介、そして乾杯は至福の時となるはずでした。

今年はその前提がすべて暗転しました。

社長ってなんだろう?
結局自分満足のセレモニーに過ぎないのではないか。
お客様第一と言いながら、自分ファーストではないか?

改めて原点に立ち返れば、この経営計画発表会が「増客」にどう結びつくのか、論理的に説明できるのだろうか? おかげで色々なことを考えました。

コロナは人を哲学者にすると聞いた覚えがありますが、少し同感です。
忙しい忙しいと言いながら、なんのことはないほとんど生産性のない会議や出張、接待・懇親と称しながら自分が「楽しい飲食をしたい」と思っていただけではないか。
現にルーティンワークを持たない多くの社長は「仕事」を取り上げられて結構暇を持て余しているようです。
それでも業績が上がっている会社ならば、素晴らしいですね。
経営者の「無駄な仕事」を消し込んでいけば相当な時間と経費の節減になるでしょう。

そうは言うものの弊社では12月も決算中間報告と時事案件を中心に「下期勉強会」という会合があります。
会議終了後は大忘年会です。
色々後ろ向きの話をしましたが、やはり自分はアナログ人間、なんとしても12月にはコロナ禍が収束し、良い決算報告と美味しい乾杯がしたいと心から念願しています。

2021.04.02 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

4月は新年度入り

 弊社の決算は4月末ですが、組織上は4月より新年度となります。異動を命じられた社員は4月1日新しい部署で迎えることになります。またなんと行ってもこの日は新入社員の入社式です。弊社の経営計画書には「人材採用は、新卒採用を基本とする」と明記されています。今年もお陰様で7名(男4名 女3名)の新卒を迎えることができました。ありがたいことです。新卒採用のおかげで法人たるトヨタネは年を取らず、かつ新陳代謝が活発になります。その効用と「文化」は会社にとってかけがえのない資産です。毎年新卒採用ができる会社というコンセプトそのものが会社の最重要なテーマです。
入社式後毎年社長から新入社員に対して1時間の講義が設定されています。総務から与えられるテーマは「経営計画書」による経営の説明なのですが、今年は大きく脱線して、トヨタネに入社した以上知っていただきたいテーマを3つ上げました。

種苗法の改正と4月1日施行について
 日本農業の歴史において農家の自家採種(自家増殖権)は自明の権利あるいは風潮が根強い中、登録された品種(工業で言えば特許を取得した製品や技術)においては、育成者権の保護強化を法律上で明記したということです。国としても優れた品種は知的財産という認識のもと、海外を含んで無断で増殖される状況に少しでも網をかけたいという意志の表れであります。

ゲノム編集について
 遺伝子組み換え技術による食品は欧州同様日本でも抵抗感が強い。一方米国・中国等は積極導入、市場での抵抗感も少ない。今後更に技術開発が進むと予測される(結果として日本・欧州は遅れる)。一方ゲノム編集技術は国民に理解してもらいたいという気持ちが強い(欧州はゲノム編集も遺伝子組み換え同様拒否反応が強いようです)。ゲノム編集は特定の遺伝子をカットする技術、言わば人工的に突然変異を作出するようなもの。本人が明記しない限り、後からゲノム編集技術を使ったかどうかはわからない。今後ゲノム編集を利用した商品は相当出回ることが予想される。

SDGsの取り組みについて(狭くは地球温暖化防止への取り組み)
日本も菅首相が2050年までにカーボンニュートラルを目指すと国会で演説した。農林省においても2050年までに農業分野のカーボンニュートラル(またはゼロ・エミッション)を目指すという方向を打ち出した。同時に「有機農業の推進」に大きくかじを切った。この方針を踏まえ会社としても商品開発・選択の際の重要なポイントと受け取らなくてはならない。また同時に社内におけるSDGsの取り組み強化が大きなテーマとなる。

以上3点がトヨタネ入社にあたって大まかな知識を持ってもらいたい時事問題であると話させていただきました。

2021.03.03 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

パンデミックと農業の行方

 2021年3月を迎え、昨年来の新型コロナウイルスによる『パンデミック』に変化が出てきました。
近畿・東海・福岡の緊急事態宣言は解除され、関東圏はまだ(3月1日時点)微妙な情勢ですが緩和の方向に向かっています。
3月・4月は花見・入学や卒業、新年度入りに伴う人の移動が活発な時期であり、再拡大の可能性も危惧されています。一方遅ればせながらワクチン接種が始まり、一部の先進国では今夏まで、日本においては年末までには?希望者への接種が実現しそうです。克服に向けて、あるいは「with corona」時代に向けて明るい方向に向かっていると信じたいです。

 しかし農業関係においては、相反するような報道が多く、それを受け取る人によって随分印象が変わります。農業現場の実感として、今年の秋冬野菜市況は総じて安値、過剰生産気味で卸価格は低位に張り付いたままです。また稲作においては2020年産が相当余りそうな情勢の中、2021年の主要産地の食料米作付意欲は落ちておらず、本年度豊作が続くとしたら、生産過剰による米価の更なる暴落が懸念されます。我々の身近な悩みは安値市況であり、生産過剰問題です。

 しかし日本経済新聞2月28日号の農業関連記事は「出稼ぎ減で人手不足 食品6年半ぶり高騰 移動制限 農業生産に影』という見出しが踊っていました。平たく言えば、農業労働力の国際的移動制限による生産力減衰と、増加を続ける輸入農産物の価格高騰や移動制限が将来の食料供給に「影」を落としていると言う内容です。
また一方、国を上げて農業の大規模化を進め、今や「スマート農業」が農政のキーワードのように謳われていますが、直近のプレジデントオンラインに「日本の農業に必要なのは大規模化という発想は根本的に間違っている」と言う記事が載りました。埼玉大学大学院宮崎准教授によれば「政府は農業の大規模化を進めようとしているが、間違っている。ほとんどの農家は、規模を拡大してもコストを削減できない」と言う。
このことは実感として私にも少し理解できる。規模を拡大しても、設備投資や雇用コストの増大等で必ずしも生産コストが下がらない現場をよく見るからです。
また仮に下がったとしても、市況価格の下げのほうが大きいケースも多い。
またアメリカやオランダ並みの大規模農場を前提とした機械やIT設備の開発が進まない上に(マーケットが小さすぎる)、田畑の単位面積が小さく、かつ四季の変化が大きい我が国においてすべてを解決するような画期的な発明は中々でないのが現状です。
「地域を支えるのは小規模な家族単位の農家」というのは全くその通りであると思うが、農家の事業継承・世代継承は、中小企業の事業継承問題よりもさらに複雑で難しい。
今うまく回転している農家においても10年後は不安だらけ。自然災害は言うに及ばず、一人欠けたら、また病気になったら、更に安値になったらと心配は尽きない。

 今回の新型コロナウイルス騒動によって農業の世界にも様々な地殻変動が起きそうであり、議論は左右上下、振れ幅が激しくなっていると感じるこの頃です。
日本においてもいや全世界においても農業・食糧問題への関心は非常に高まっていると感じます。
そのことが将来の農業及び農業者にとって福音であることを願っています。
川西裕康


2021.02.06 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

カーボンニュートラルと施設園芸

 2020年10月26日首相として初めて迎える国会での所信表明において菅首相は2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すと表明した。新型コロナウイルス対策の遅れや、数々の政治スキャンダル、菅さん自身の抑揚のない演説故か、あまり注目されなかったように見えるが、驚くべき画期的な決意表明だと思いました。
その方針は欧州を中心に歓迎、大いに評価されている。

 日本の部門別温室効果ガス排出量を調べると、農林水産業からの排出は5,060万トンで全体の3.9%。最大の発生源は燃料燃焼によるCO2(1,700万トン)、稲作や家畜消化管内発酵に伴うメタン(2,120万トン)となっている(農林省データ2016年)。正直想像よりも少ないという印象です。
というのも我々のビジネス上のパートナーは主に「施設園芸」であり、その多くは加温装置のある園芸農家だからです。従って私どもの関心は上記の国家方針に「施設園芸」も影響を受けるのかどうかです。日本は縦長の国土で寒冷地から亜熱帯地まであります。このことは四季を問わず同一作物を供給するには大変有利であり、日本国民は時季を問わず主要野菜をスーパー等で購入することができる。
それでも冬期に新鮮な野菜や花卉を生産するためには加温装置(主に重油焚き加温機)が必要となる。「施設園芸」は年間通して新鮮な農産物を供給する上で、極めて重要な役割を担っています。ただ恐らく農業から縁遠い都会の、しかも環境意識が高い消費者に、実はこの野菜にはこのくらいの重油が使われているのですよと言えば、相当びっくりするのではないかと思います。カーボンニュートラル政策が今後の園芸農業にメスを加えるのかどうか注意深いく観察する必要があります。現場ではヒートポンプ(電気)や木質チップ暖房機、バイオマス起源の暖房装置等も開発されていますが、どれも利点・欠点があり、メジャーな存在にはなっていません。

 今後地球温暖化が差し迫った人類存続の危機であるという認識がより多くの人に広まれば、露地ないし無加温ハウスでできる「旬」の野菜で我慢すべき、作れない時季は保存食や加工食品を中心とすれば良いのではという世論がメジャーになる可能性も視野にいれるべきと少し心配しています。
しかし一方農林漁業分野においては、太陽光発電は言うまでもなく、風力、バイオマス、潮力、小型水力発電等をうまくミックスして活用できるようにすれば、他の産業に比べてはるかにエネルギーの自給は可能だとも思います。弊社としても将来のカーボンニュートラルを前提としながらも一年中新鮮な農産物を供給するという課題に対する産業革新に少しでも貢献できる会社でありたいと念願しています。
川西裕康

2021.01.06 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

2020年の3つの出来事

謹賀新年 新しい年が始まりました。
しかし新型コロナウイルスによる社会混乱は年を越えても衰えることなく、益々猛威を増しており、不気味な情勢です(2021年1月5日現在)。
2020年に始まった新型コロナウイルス禍は今後歴史の教科書に載ることは間違いありません。

パンデミックによる死者数が第1義的な記載事項でしょうが、それ以上に「ICTの進展」と「貧富の格差拡大」という点において歴史上の特異点として記憶されるのではないかと想像しています。もはや2020年1月までの世界に戻ることはできないでしょう。

村上春樹さんの「1Q84」ではないが、2020のつもりが「2Q20」の世界にワープしてしまったのかもしれません。個人的にはもとの2020に戻りたい。デジタルよりもアナログ、ソーシャルディスタンスよりも温もりです。

 そんな中、園芸種苗業界においても特質すべきことが3つ有りました。

 一つは野菜種子の90%以上が海外採種と言われる中、種子の安定供給ができなくなるのではないかと心配されたことです。驚いたことに種苗メーカーよりも使用する側の農家が真剣に心配したようです。海外の採種圃場を視察できない、指導できない、種子の輸入が滞るのではないかという思いからでしょう。
しかしこれは杞憂に終わりました。種子生産及び流通のネットワークがいかに世界中の関係者の相互信頼関係に支えられているかを証明しました。

 2つ目は筑波大学の江面教授によってゲノム編集技術を利用した高GABAトマトの開発・実用化が発表されたことです。
遺伝子組換は厳重な「審査」が必要な上、日本の消費者からはほぼ拒否された感があります。
しかしゲノム編集は基本的に「届け出」で市場流通が可能です。

2021年以降このゲノム編集食品 高GABAトマト(品種名 シシリアンリュージュ ハイギャバ)を消費者が受け入れるかどうかの社会実験に大きく国が舵を切ったということです。
ゲノム編集食品であることはあえて表示義務はなく、かつ開発者自身が公表しなければ、ゲノム編集の痕跡を後から調査検証することは不可能であると言われています。

あえて大々的にメディア発表したのは、国が国民に「ゲノム編集食品」を受け入れてほしいという明確なメッセージです。

 3つ目は2020年12月2日参議院本会議において「種苗法の一部を改正する法律」が可決成立したことです。これは原理的に言えば、人工的に改変(品種改良された)され、特有の特性を有することが確認され、かつ国家によって品種登録を認可された品種については、その自己増殖権よりも育成者権を優先させるということです。

特に栄養繁殖で増殖できる植物の海外での無断増殖を抑制する法的根拠を持ったというところに意義があります。やや思想的・あるいは情緒的な反対論も予想されましたが、無事成立、本年4月の施行を待つ段階となりました。

以上3つの事実はコロナ禍の最中ではありますが、2020という年は業界にとっても大きな変化の年となりました。

本年もどうかよろしくお願い申し上げます。
川西裕康

2020.12.08 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

2020年は特別な年

 2020年(令和2年)が終わろうとしていますが、新型コロナウイルス(COVID19)によるパンデミックはまだまだ続きそうです。青山学院大が箱根駅伝を大会新記録で制した時、東京オリンピックの延期も春夏高校野球の中止も誰も予想しなかったでしょう。
大相撲1月場所でトランプ大統領が観戦する中、幕尻の「徳勝龍」が優勝し、安倍首相がバンカーでころんだ映像が世界に配信されたのが異変のシグナルだったのでしょうか? 
3月には世界中で感染が爆発し、日本でも4月には緊急事態宣言が発令され、一人当たりGDPも韓国に抜かれそうとの報道もありましたが、その後なぜか株価は上昇した。

 2020年という年はこれから50年後、100年後歴史の中でどう評価されるのか、全くわかりません。「未来が早くやってきた」という識者もいますが、コロナ禍が収束しても、コロナ以前の経済社会に戻るとは思えません。100%以上の復活を遂げる、あるいは変革の波に乗れる業種もあるでしょうが、70%未満のままで推移しそうな業種もあるでしょう。
また若い世代の心の変容はいかなるものか、私にはほとんどわかりません。

 日本農業の未来に対するコロナ禍のインパクトもいまだ未知数です。短期的には需要が激減し、価格が暴落した品目も多い中、農業者一人ひとりがどう現実を捉え、どう未来に向かって対処すべきか、専業で頑張ろうとしている人ほど悩みは深いでしょう。いや現時点でも先は見えていません。短期的には食糧危機どころか、生産過剰による暴落のほうが現実的です。

 AI革命やICTの進展・仮想現実が加速度をつけて進展する中、今回のパンデミックが人類の未来にとって「神の手」であることを信じたいと思います。1986年ワールドカップサッカーにおけるマラドーナの「神の手」は、正しかったのかどうか、そもそも正しいか否かの議論の対象になるのかどうかさえ不明です。2020年のパンデミックが人類の未来に前向きな光を与えたといつか思われるようなら、それは正しい「神の手」だったと言えるでしょう。

 もっぱら農業をビジネスの対象とさせていただいている弊社においても厳しい現実がありますが、未来産業としての農業に役立てるようこれからも努力したいと念じています。
2021年もどうかよろしくお願い申し上げます。

川西裕康